次世代医療基盤法について

我が国の個人情報保護法制は個人情報の保護が法目的ではなく、個人情報の利活用を行う際に本人に不当な損害を与えないことが目的です。 「不当な損害」は個人に係わる場合、本人の事情によっても変わるために、「同意」を得ることが条件にすれば良いように見えます。

個人情報保護法の2015年改正では特に差別につながりやすい要配慮個人情報は明確な同意なしでは原則として第三者に提供できなくなりました。 このこと自体は差別のような「不当な損害」を与える可能性を排除するという意味では重要なことです。

ただし、第三者提供が難しいことは、医学・医療の発展や適切な医療・介護体制の構築を進めるという立場からは問題があります。医学・医療の発展や適切な医療・介護体制の構築を進めるために医療情報を利用する時に患者さんに迷惑をかけることは普通はありません。また、「明確な同意」があればどのような利活用が可能です。でも「同意」は内容が理解できて、同意しないことによる不利益がないことが保証されてはじめて意味があります。

医療や健康にかかわる情報の利活用に関して、その内容を理解することは簡単ではありません。また日頃お世話になっている医療機関からお願いされた場合、断ることがまったく不利益にならないと思うことも難しい場合があるでしょう。

そのような問題を起こさないためには、時間をかけた丁寧な説明が必要で、時には医療機関や患者さんにとって大きな負担になります。 「不当な損害」を与える可能性がなく、医学・医療や社会にとってメリットの大きい利活用でも同じことで、場合によっては利活用をあきらめることになりかねません。

このような問題に対処するために次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)が2017年に制定されました。この法律はご本人に「不当な損害」を与えないことを確実にし、利用目的が医学・医療の発展や適切な医療・介護体制の構築のような社会に役立つ場合に限定して、医療情報の利活用を促進することを目的にしています。

さて次世代医療基盤法の中身を簡単に見ていきましょう。図1をごらんください。

図1次世代医療基盤法の概略

図1は次世代医療基盤法のまとめです。一番の中心は赤枠で囲まれた認定匿名加工医療情報作成事業者(認定事業者と呼びます)で、政府によって厳しい基準で認定された事業者で、情報を安全に保管することができて、本人(患者さん等)に不当な損害を与えることがないように、誰の情報がわからないように加工した匿名加工医療情報を作成し、医学・医療の発展や適切な医療・介護制度の構築のような社会に役立つ利用目的であることを審査することが出来て、そのような場合だけ情報を利用する匿名加工医療情報取扱事業者(例えば医学研究者、新薬を開発する、あるいは新しい医療技術を開発する事業者等)に提供します。認定事業者の業務の一部を受託することができる認定医療情報受託事業者も政府の厳しい基準で認定事業者と一体で認定されます。

それではどうやって患者さんなどに「不当な損害」を与えないことを確実にするのでしょうか。医療機関から認定事業者には個人情報の状態で医療情報が提供されますが、認定事業者は誰の情報かわからないように匿名加工します。普通の匿名化より厳密に、医療情報の性質を踏まえて加工しますので、患者さんが誰かわかることはありません。またそれでも不安だと言う場合には患者さんはいつでも受診した医療機関に申出るだけで、次世代医療基盤法に基づく医療情報の利活用を拒否することができます。

また匿名化した情報の利活用は医学・医療の発展や適切な医療・介護制度の構築のような社会に役立つ利用目的である場合だけで、患者さんを識別したり、特定の特徴を持つ人を探し出したりすることはできません。匿名加工医療情報を提供したあとも、利活用のあり方を認定事業者が監督します。患者さんにとって安心できる仕組みであることは理解していただいたと思います。医療機関にとってもメリットがあります。医学や医療技術の発展は患者さんの情報の利活用なしには進めることができませんが、難しい匿名加工を認定事業者がしますので、よぶんな匿名化作業をしなくてもよくなりますし、安全な匿名加工医療情報を社会のための利活用に限定して進めますので、複雑な説明をする必要もなくなります。

我が国の医療・介護や健康管理が世界に遅れを取らず健全に発展するために、しっかり進めて行く必要がある法制度と考えます。